●「2分でお願い」しません


今日は仕事談義でご機嫌を伺おうという趣向。


ラジオのディレクションという仕事を10年近くしているが、喋り手に話を、ある時間内でまとめてくれと頼んだことがない(と思う)。
「このあとのトークパート、何分くらいで考えてる?」と訊かれれば、「まあ、だいたい3分弱でしょうか」とか「2分くらいですかね」とか「5分は覚悟してます(笑)」などと答えてはみるものの、別にその時間に収まらなくたってかまわないと思っている。


自分も文章書き仕事のときに「何文字で」とあんまりかっきりと指定されるのは苦手だ。
「何文字以内に、何分以内にまとめるのがプロ」といわれても、そもそもその手の空虚なプロフェッショナル論が苦手だ。
なにいってんだろ、と思ってしまう。
収まったって面白くなけりゃ意味がない。面白けりゃ逸脱したってかまわない。


いろんな現場があるから一概にはいえないが、ラジオのディレクターというのは他の演出担当(生放送に限っていえば、たとえばTVのワイドショーやニュースバラエティ)と比べて、格段に高い自由度に恵まれている。
一応、全貌を見渡せる立場にいて、なおかつタイムキープの権限も持っている。
(逆の言い方をすれば、責任を負っているということになるけれど、)
ま、早い話が、どこぞのトークパートで時間が押したって、他のところで予定曲をカットしたり、変更したりすれば調節できる、そういう立場にあるということ。


さすがに番組のエンディングは終了時刻が決まっているので、その時間には入りきらなければならないわけだが、そこはなぜかフシギと収まる。毎回そうである。
フシギと……って、そんなんでプロなのかと問われれば、全然プロでないような気もしてくる。
でもなあ。
そんなんだったら別にプロでなくたってエエわけで。


以前、教育テレビで見た番組を思い出す。
いろんな職業の舞台裏を、子ども向けに見せていくという趣向の10分番組。
その日は雑誌のライターさん(女性)が取り上げられていた。


主に情報誌に書いているひとのようだった。
そこで、「何文字以内に収める」という話が出てきた。
たとえば200文字以内でキャプションを書くという課題がある。
まず取材してきた成果をまとめた上で、彼女は原稿を書く。
その結果、オーバーした文章をいかに200文字以内に収めていくか、その過程が紹介されていたのだ。
言い回しを工夫したり、漢字で表現できる形容はそうして字数を稼いだり。
そうやって字数以内に収めるのです、○○さん、さすが!
みたいなところで、オチとなっていた。


けどねえ、子どもにそんなことを紹介して、「そうか、ライターって面白そう!」と決意されることは、あまり期待できないと思うのだ。
そんなことはモノを書く仕事の本質と関わりがない。
ハウツーものに類する話だ。
ミュージシャンになればライブ会場の喧噪のなかでもチューニングが出来るようになります、てなことと一緒じゃないか。


大事なのは内容のある番組を作り上げること。
それには喋り手が内容のある話をすること。
言い換えれば、喋り手から内容のある話を抽き出すこと。
喋り手に「いっちょオモロい話をやってみるか」てな気になってもらうこと。
そう、「その気」にさせることも演出の一環なのだと思う。
内容よりも体裁(この場合は時間尺)を気にするような素振りを見せていては、その気になってもらうのは難しかろう。


ま、そんなわけで今週も時計を横目で見やりつつ、2分でお願いしない日々が始まるわけだったりする。