●9番目の未来


「ロックンロールの未来を見た」
というのはアメリカの音楽ライター、ジョン・ランドー(Jon Landau)が書いた有名な一節。
「その名はブルース・スプリングスティーン」とつづく。
安易に転用されすぎて、いまでは少々手垢がついた感がなくもないが、前後を含めて引用すると、こんな文章。

先週の木曜日ハーヴァード・スクエア劇場で、
僕は自分のロックンロールの過去が一瞬のうちに目の前を通り過ぎていくのを見た。


そして僕は大変なものを見たのだ。


僕はロックンロールの未来を見た。その名はブルース・スプリングスティーンという。


僕が若い気分でいることが必要だった夜に、
彼はまるで僕が初めて音楽を聴いたときのような気分にさせてくれた。


うん、やっぱり名文は名文だと思う。
これを書いたとき、ジョン・ランドーは26か7。
それならまだ充分に若いと思うのだけれど、1947年生まれで「Summer of Love」の年にハタチになった彼にとっては、激動の60年代が過ぎたあとの70年代は、やはり凪のような時代と感じられていたのかもしれない。
なんともやるせない気分漂う70年代初頭をやり過ごしたあとに出会ったものだったから、スプリングスティーンのエモーショナルなライブが余計に響いたということはあるだろう。


で、この場合、肝要なのは、単に素晴らしいライブということだけではないということ。
功成り名を遂げたバンドがいいライブを見せてくれました、では違うのだ。
それではなんというか、未来感(そんな言葉ないけど)に欠けるというか。
そうではなく、まだ未知数の段階のバンドに初めて遭遇したということ。
それが、見る者にロックンロールの未来を感じさせる必須条件。
ある意味、俺だけが見た、私だけが発見した、というような、傲慢で高揚した気分のなせるワザといえるかもしれない。
そんなの独りよがりな感じ方だよって声は認めるにしても、それでもやはり、なんだかとんでもないものを見た、という激烈な体験は残る。
そういう初遭遇が私にもいくつかあって、それはやはり、どれも「ロックンロールの未来を見た」としか云いようのないものだった。


1981年のRCサクセション、1987年のブルーハーツ、1988年のエレファントカシマシ、1998年のくるり、1999年のNumber Girl、2003年のアナログフィッシュ、同じく2003年のサンボマスター、2006年のミドリ。


そうやって指折り数えると、私にとっては9番目になる、ロックンロールの未来を見た。
先週の土曜日のこと。場所は大阪の福島LIVE SQUARE 2nd Line。
バンドの名は「andymori」という。



昨秋の《MINAMI WHEEL》にも出ていたそうなのだが、そのときは不覚にもノーチェックだった。
12月にCDでの音源を聴いて、MySpaceYouTubeで映像を観て、俄然もの凄く気になっていた。
その彼らの、関西では2度目となるライブを観たのだ。
会場には、関西の音楽関係者のうち、ライブハウスでよく見かける、ロック好き、バンド好きの目利きの方々が大勢来ていた。
別に鳴り物入り云々ということではない。
ただ彼らの音楽が気になって、という風情で。


実はメンバーには前の日に会っていた。
レーベルの方にお願いして、前日に局に来てもらい、コメントを録っていたのだ。
だが、ライブで見る彼らの印象はまるで違っていた。
昨日は草原で暮らすのどかな偶蹄目という感じだったのが、いまステージの上にいる三人は、密林を駆ける俊敏なネコ科の生き物みたいだ。


   *  *  *


ベース、藤原ヒロシ
指弾きで長竿のリッケンバッカーを操る。弾きながら身体をねじる。恰好よい。


ドラムス、後藤大樹
長い体躯を折り曲げるようにしてぶっ叩く。恰好よい。


ギター&ボーカル、小山田壮平
あるDJは映画『CONTROL』でJOY DIVISIONIan Curtisを演じたSam Rileyに似てると思い、あるディレクターは元The Libertines、現BabyshamblesのPeter Dohertyを思い出した、とライブのあとで教えてくれた。
やや吊り目気味になりながら強烈な目ぢからを発揮して歌う彼は、昨日、コメント収録で会ったときとは全然違っていた。私は『誰も知らない』の頃の柳楽優弥みたいだと思った。
例に挙げたシンガー、俳優の名でわかるように、大層、端正な顔立ちの、しかし内に狂気を秘めている、そういう印象を受ける青年。ギターは、Gibsonセミアコ


   *  *  *


1曲目はギターのアルペジオで始まった。
すぐにナイーブな歌声が乗っかってくる。


「いつからか時間がとまっていた」
「あいつ変だと指をさされたよ」
「アンプ蹴ったらギャンギャンないた」


どことなく、アンジー水戸華之介を想起する詩人っぷり。


しかし、「アンプを蹴っとばしたんだ」というサビのあたりで、アンプではなくギターにトラブルが発生。
ジャンプの勢いでか、ストラップが千切れてしまったようだ。
開始からまだ1分も経っていない。
替えを探しに、足早に楽屋へ下がるGuitar。
そのあいだもDrumsは、よりキレたみたいになってドカドカとドラムセットを鳴らし続ける。
呼応してBassもブンブンと低音を発し続ける。
一瞬たりとも途切れることなく演奏は続く。
やがて戻ってきたGuitarはストラップを付け替えると、躊躇なくリフを弾き下ろし、リズム隊に合流する。
それが2曲目、「FOLLOW ME」。


そのまま息もつかせぬ勢いで突っ走る。
途中、3曲目で、Drumsがスティックをすっ飛ばしてしまう。
パンクらしくドラムスティックのスペアなど持っていないのか、しばらくは1本だけで、これでもかとスネアを叩く。
そのうち、最前列にいた客の女の子が拾い上げてスティックを渡してくれたのだが、その後、あまりに強靱なドラミングに、今度はそのスティックが折れてしまう。すっかり短くなったスティックで、彼はやはりぶっ叩き続ける。


そのあと、MCに入る。

今日は昼間に新世界に行って通天閣にのぼり、「いいライブができますように」とビリケンさんにお願いしてきた。
なのに、いきなりトラブル続き。
ビリケンさん、役に立たないね。

そんな話を訥々とする。
いやいやどうして。ビリケンさん、霊験あらたかではないか。
すでに会場中、呑まれてる。けどまあそれは、ビリケンさんのおかげってわけじゃあないか。


つづいて歌われたのは、「ビューティフル・セレブリティ」と紹介された、まだ音源化されていない曲(だと思う)。
「そう、彼女はビューティフル。ヤマトナデシコ
シャララララとファルセットでハミングしたあと、ギターをギャリギャリとかき鳴らす。
しかしリズムはモータウン(「恋はあせらず」のトゥットゥットゥールトゥットゥッってゆうあのアレ)。面白い。
「唇荒れてるけど、彼女とキスするために生きているのさ」
「彼女の家のオーディオセットでかけてやるのさ、ラブソングを、ラブソングをね」
そんな感じの歌詞。


Vocalはマイクに上唇をぴったり付けて歌っている。
しっかりと歌が聞こえる。
おかげでライブでも歌詞がびしばし聴き取れる。
こういうバンドは近頃では珍しい。
だからこれはひとつのポイントかもしれない。彼らに惹かれる理由の。
「なに言ってるかはっきり聞こえる」というのは。


でもなにを聞き取れたからった何を歌っているのかがすぐ理解できるわけじゃない。
こちらも心して聴かないと感じ取ることができない。
……いや、そんなことないか。そんな偏狭な歌じゃないな。
訂正。
ぼーっと聞いてても心にひっかき疵を残していくような、そんな歌である。
なので、聴いているうちに気になってくる。
それでいくらかしっかりと耳を傾けてみたら、なんだか不思議なことを歌っているとわかる。そんな感じ。
それだけ奥行きのある歌詞なのである。これもポイントのひとつ。


6曲目のあとで、再びMC。

昨日はホテル関西というところに泊まって。
窓から風俗の案内所、『俗武者』っていうのが見えて。
風俗行くのでも武者にならなきゃいけないあたりに大阪を感じました。
だからね、人生はパーティーだっていう歌をやります。

「Life Is Party」。これ、名曲。
アルバムを聴き返すたびに気に入った曲が移り変わりするのだが(それだけいい曲が多い)、目下のところはこの曲にやられている。
つづいて短いナンバー、「サンセットクルージング」。
「初恋の香りに誘われて 死にたくなる夕凪」
真ん中のブレイクする辺りで楽器が鳴り止み、ほぼボーカルだけになって歌われたこのくだり。泣かされそうになった。


最後に次回のライブの告知などやったあと、ラストはキラーチューン「everything is my guitar」。


30分くらいのステージだったが、とてつもなく強烈だった。
トラブルも味方につける神がかりなライブをみせてもらった。
こういうのはクセになるのだ。


次回は同じこの場所、福島LIVE SQUARE 2nd Lineで、3月12日、木曜日。


これはもう追いかけるしかなかろ。

andymori@福島LIVE SQUARE 2nd Line 2009/2/7】

  1. andyとrock
  2. FOLLOW ME
  3. モンゴロイド・ブルース
  4. ビューティフル・セレブリティ
  5. ベンガルトラとウィスキー
  6. 僕が白人だったら
  7. Life Is Party
  8. サンセットクルージング
  9. everything is my guitar


【PV】

★「everything is my guitar」
引きの画面でバンドの全景を収めたスタジオライブ仕様。


★「FOLLOW ME」
こちらは寄りの画面で。各人の演奏するさまの細部がよく伝わってくる。


★「Life Is Party」
物憂げな車中のメンバーと、トウキョウの街の青春群像がカットバック。なんとも名曲。


【live】
ライブの雰囲気なら、これか。
番組自体……というかVJはなんだかな、という代物だが、1'35"〜5'44"のライブ演奏パートは必見。



andymori  アンディとロックとベンガルトラとウィスキー