●しまなみ海道をゆく #1-b 〜向島から岩城島まで


向島。川沿いを走ってきて、広めの道と交差する。
富浜橋交差点。
そこで右、つまり西へ進路を取る。
まっすぐ突き進むと海に出る。
西日が強烈。


海岸に沿って南に下ると、向こうに因島大橋が見えてくる。


いい景色を臨むところに休憩所がある。
 


因島大橋に近づく。

勇壮である。


一度、橋の下をくぐって向う側に。


橋を通り過ぎて700メートルほど行った道路脇に、橋に上るアプローチがある。
そこをタラタラと上る。


この橋は、上層部をクルマが走り、歩行者と自転車・原付は下層部を通る、二層構造になっている。

上は吹き抜けていないし、側面には網が張られているので開放感には欠けるが、海の上を走る感覚は味わえる。

渡り切るまで20分あまり。



因島は島の北部を突っ切るコース。
夕焼けが美しい(と、これは露出を補正して青み赤みを強調してる画だけれど)。


コンビニやファミレスなどが多く並ぶ、繁華な西海岸を走って南へ。



生口橋。ここも南側にアプローチ路があるので、北から来て一度、橋の下をくぐって振り返るの図。
シェイプの美しい斜張橋で、1991年に完成した当時は世界一の大きさを誇っていた(今は世界9位。それでも横浜のベイブリッジより大きいとか)。



アプローチルートの途中にある見晴台から南西方向を臨む。
正面の海の向こう(左手側)に見えているのが岩城島
造船所のドックに灯りが入っている。その背後にそびえているのが積善山。



夕闇迫る生口橋を渡る。
しまなみ海道」とはいえ、ここまでに島を渡ってきたのは、最初が渡船、次が二層橋の下層だった。
3つ目の島にして、ようやくその名にふさわしい橋を渡ってるぜという感慨に浸る……浸っていたかった。


が、さて今夜の寝床をどうするか、という問題が残っている。
生口島に入ったが、すでに辺りは暗い。街灯もまばら。
今夜は早めにこのあたりでどこか場所を探してテントを張るべきか。
気持ちは焦る。
焦りつつも考える。


今回の取材行の目的はふたつある。
ひとつは、「しまなみ海道」を取り上げるもの。
ただ、「しまなみ」とひとことでいっても対象が広すぎる。
なので、「大三島にある大山祇神社を訪ねる」道行きという形で紹介するというのがひとつ。
その大三島は明日訪ねる予定。


そしてもうひとつは、しまなみ海道から外れた離島群の紹介。
具体的には、愛媛県上島町に属する四島、「弓削島、生名島、岩城島、魚島」のうちから「岩城島」を紹介すること。
これを、どちらも1000字程度の紀行コラム2本にまとめるというのが、今回、私に与えられたミッションなのだ。


ということで、岩城島には行かねばならない。
ならば、決めた。
やはり今夜のうちに渡ることにしよう。
目指す岩城島へは、ここ生口島の南東部、洲江港からフェリーが出ている。
すぐ目の前に浮かんでいる。さっき、生口橋の向こう、因島の見晴台からも見えた島だ。
ちょっと灯りも見えていたし、行けばなんとかなるだろう。
どうせならそのくらいのギャンブルがあったほうが旅行はオモロい。
一晩寝て、早朝から動けるとすれば、なんといっても明日の行程がかなり楽になることだし。
走りながら、そう自分に言い聞かせていたら、その洲江港に着いた。



港というより、船着き場に近いところである。
3台ほど、フェリーを待つクルマが並んでいた。


10分ほど待っていると、対岸からフェリーが帰ってきた。
19:15発の便に乗り込む。
料金は、なかで車掌的役回りのおじさんが集めにくる。
「自転車? 片道、285円」
明日、戻るんですけど、往復でもいいですか。
「帰りは、また帰りで買ってや。人が替わるでな」
おじさんはチラリと俺のMTBに目をやる。
「いまから? 泊まるとこ、決めてんの?」
いやあ。テントあるんで。
「テント? 場所あるか? ウチの待合室で寝てりゃいいけど……最近は夜中ァ、○○人がうろうろしてっから危ねっぞ」
あ。そうですか?
「造船のよ、仕事でよ、いっぱい来てんのよ、あいつら」
なにげに民族差別的なアドバイスをくれる。悪気はないんだろうけど。
山の方行けば、どっかあるんじゃないですか場所、と俺。
フェリーの壁に島の地図がイラストで描かれている。

「山なんか、なおさらナニ出てくっか分からねっぞ」
わはは。そうですか。
言いながら、島の地図をデジタルカメラで写していると、おじさんはふいと向こうへ行ってしまった。
○○人のくだりで、は? て顔したの、伝わったかな。俺の愛想、悪かったかなと思う。


すぐにおじさんは戻ってきた。A4のコピー紙を持っている。
「これさ、持ってって」
島の白地図だった。恐縮した。
「この船は、この、上の方に着くからよ。反対側、下の岩城港のほう行ってみ。あそこらが島でいちばん栄えてるとこだ」
ええ。
「そのスポーツ車ならさ、ぐるっと廻っても30分もかからね」
ええ。
「そしたら、なんかあるだろ。寝る場所とかさ」
どうも。
「そうしたほうがいいよ」
はい。
「なにせ夜中は○○人が出歩いてっから」
……。
おじさん的には、結局そこは外せないようだった。


岩城島側の発着場、小漕港。

バンやトラックばかりが待っていた。
降りてきたクルマたちがそのまま走り去り、替わって7台ばかりの車両を吸い込むフェリー。
乗り込んだ車がエンジンを切ると、あとはフェリーの低いアイドリング音がポンポンポンと響くだけだった。
ここも立派にシンプルな、まあなにもない船着き場である。
待合室と、その前に設えられた缶ジュースの自販機、一本の街灯。
灯りはそれだけ。


とりあえず、島のなかに向かってまっすぐ伸びている道を走り出した。
まだ夜の7時半だというのに、鳥の声くらいしか聞こえない。
夜空に星がよく見える。
こんなにくっきりとオリオン座の全体を見たのなんて、いつ以来だろう。


見ると、右手にヤマザキストアがある。
園芸店も兼ねたような店構えで、入り口では土や堆肥も売っているようだ。
夜10時まで営業と書いてある。
これは助かる。


そこからほんの30メートルほどでT字路にぶつかる。
左手前方の小高くなったところが、けっこう広めの公園になっている。
MTBを降りてみてみると、真ん中に、ゲートボールが3組くらい一度にゲームできそうなコートがあった。
赤いランプが軒先に付いている、たぶん消防用具を入れてある倉庫の横に、小さなすべり台とブランコと鉄棒がある。
その並びに公民館らしき建物があり、端には便所がある。
中を見てみると、手洗いには一輪挿しに花が活けてあり、手を拭くためのタオルもある。
トイレットペーパーも完備された、とても清潔なトイレだった。
テント泊で、もっとも重要な問題が解決された。
ここに決定。


トイレがあるのとは、対角線上に反対のところにテントを張ることにした。
頭のヘッドランプだけが頼りだが、私が持っているのはmont-bellのムーンライト2型というテント。
その名の通り、「月の明かりがあれば組める」という楽勝設営が売りのシリーズなのである。
設営方法など、参考になる使用レビュー
輪行よりは馴れているので、すぐに組むことができた。
下の土は固く、ペグはろくに打ち込めなかったが、まあ荷物を放り込んでおけば、飛んでいくことはない。


テントの設営を終えてから、さっき見かけたコンビニへ買い出しに行く。
カップラーメンとビールと柿ピーを入手。
ガスストーブで沸かした湯で、テントで食うカップ麺は、なぜこうも美味いのか。



『ブレアウィッチ・プロジェクト』の一場面みたいだが、これが一応、今夜の宿である。
民家もすぐ近くなので、防犯上の問題はあまりないと思う。
ただし、当の民家からクレームがつく可能性はある。
音を立てると、近所にいる犬が猛烈に吠える。
それに呼応して、山の上のほうから、野犬らしき遠吠えが返ってくるのを聞いたときは、知らず知らず身体がこわばった。


身体は疲れているはずだが、気が昂ぶってか、あまり眠れない。


島の中の、山のふもとのテントのなかでは、ラジオだけが友達だ。
SONYトランジスタラジオで、FM TOKYO系のネット番組とNHK第1を交互に聞く。
こういう環境だと、人の声が染みこむように耳に入ってくる。


アウトドア化が進めば、ラジオに未来はあるのではないか、ムニャムニャ。
そんなことを考えているうちに眠りに落ちた。
長い一日だった。犬のように眠りたい。


今治まで、あと65キロ(おそらく)。