●クラムボン:羽根のついた音が、夏に封印を。
クラムボン [2005/9/4(日) 大阪城音楽堂]
去年の夏の日比谷野音のステージを映像で見て以来、ずっと気になっていたクラムボンのライブに行くことができた。
あいにく天気は雨だったが、白っぽい合羽で埋まった客席は暖かい拍手で3人の登場を迎えた。
ベース、ミトの「雨を吹っ飛ばすために飛ばしていきます」という言葉どおり、序盤はシングル曲中心に始まったが、本領を発揮したのは中盤、饒舌なインストゥルメンタル(器楽曲)「心象21」からあとだったように思う。“女性ボーカルの柔らかな声が耳を惹くポップユニット”という、デビュー当初のイメージは見事に裏切られるだろう。
現在の彼らは、タフなライブバンドに変貌している。
3、4年前にブームとなった“音響系”“エレクトロニカ”(いずれもテクノに近いジャンル。音色、音圧、リズムに凝ることを志向)の波をくぐり抜け、それを血肉化することに成功したんだと思う。
躍動感あふれる伊藤大助のドラミングに接すれば一目瞭然だし、全身を踊らせて鍵盤を叩くボーカル原田郁子の姿からもそれは窺える。頭でっかちに陥らない“人肌アンビエント(環境音楽)”とでもいおうか。
だからなのか、彼らの音楽は雨や風もあまり苦にしないようにみえる。
この日は入場者にシャボン液とストローが配られた。
ライブのあいだも皆、思い思いにシャボン玉を吹いている。それを見ているだけでも自由な気分になれる。
後半のハイライト曲のひとつ「ララバイ サラバイ」では白熱する演奏に応えるように強い風が吹き抜ける一瞬があった。
客席の上空に浮かんでいたシャボン玉は一気に、ステージの屋根より高く連れ去られていった。
そんな情景がやけに印象に残る、野音ならではの時間――聴き手が心を遊ばせられる時間――を過ごすことができた。
うるさかった蝉の声が、終演近くにはいつのまにか秋の虫の声に変わっていた。
まるでこの2時間半のなかに、夏が終わる瞬間が封じこまれていたみたいだ。
明日から秋だと宣言されても仕方ないな。そう観念して、同時に決めた。次の夏もここへ来よう。
【読売新聞・大阪版夕刊:2005年9月16日(金)掲載】
※視認性の向上を図るため、紙面掲載時のものに改行を加えています。
※タイトルは、web掲載にあたって、改めて書き手(大内)が付けました。
※掲載時見出し:「タフなライブバンドに変貌」