読売新聞/音楽評007「浜田省吾」
[archive][music]●浜田省吾:growing up with R&R
浜田省吾 [2005/10/9(日) 大阪城ホール]
来年にはソロデビュー30年を迎える浜田省吾。
4年ぶりのツアーということもあり、スタンド席の天辺までぎっしりと待ちかねたファンで埋め尽くされている。
30代から40代にかけての観客が大半を占めていて、子供連れの姿もたくさん見受けられる。
ライブ活動を大切にしてきたアーティストが、その健在ぶりを発揮した格好だ。
夏に発表された、これも4年ぶりとなった最新アルバム『MY FIRST LOVE』を携えてのツアーである。このタイトルは、ロックンロールとの出逢いにときめいた10代の頃の初期衝動に由来している。
このアルバムからの新曲に加えて、自身が「いま歌いたいと思った」とシンプルな気分で選んだ曲を織りまぜた選曲で3部構成のステージが展開された。大きくは「旅・恋愛」「家族」「青春」というテーマがそれぞれのパートを支えていたように思う。
個人的に強く印象に残ったのは第2部である。家族を持つ者、持たない者、その存在に歓びを感じる者、疲れを覚えた者、逃げだす者、再び帰っていく者――。
主人公と周囲とのさまざまな関係を、ソングライター浜田省吾は卓越した手腕で描き出す。
小説家ならそれで充分なところを、シンガーでもある彼は、1曲ごと、そのストーリーのなかを生きるように歌う。
あるときは家を想う父親となり、あるときは家を出る少年になって。
彼が演じてみせるのは――いくらか誇張されているときもあるけれど――ほとんどの場合、日常もしくは日常からほんの少しだけジャンプしたところで、右往左往したり、感傷にふけったり、絶望に襲われたりしている普通の人々だ。聴き手は思わずそこに自分を重ねてしまうのだ。
ただのエンターテインメントショーも悪くないけれど、「あー楽しかった」だけで終わらない、個人的に共鳴するなにかがあったとき、その体験は倍音が響くようにして残る。
この日からしばらくのあいだ、私のなかでは遠い家路を辿る男のイメージが消えなかった。
【読売新聞・大阪版夕刊:2005年10月21日(金)掲載】
※視認性の向上を図るため、紙面掲載時のものに改行を加えています。
※タイトルは、web掲載にあたって、改めて書き手(大内)が付けました。
※掲載時見出し:「卓越した手腕で『普通の人々』歌う」