●遠藤賢司:嗚呼、遍歴の騎士が往く、静寂轟音の荒野

遠藤賢司    [2005/11/2(水) 京都磔磔


 31 年の歴史を持つ京都のライブハウス磔磔で、さらに5年上のキャリアを誇る、エンケンこと遠藤賢司のライブを観た。


 1部は、ギターを手にひとりで歌うスタイルだが、いわゆる弾き語りを想像していると度肝を抜かれるだろう。
 冒頭の「夜汽車のブルース」では生ギターを打楽器のようにかき鳴らし叫び、「カレーライス」といったバラードでは一瞬で静寂を取り戻し、やや鼻にかかった声を絞り出しながら囁くように歌う。
 繊細なピアニシモから轟音のフォルテシモまで、発する音域の幅の広さに圧倒される。この感覚、クラシックの室内楽――たとえばグレン・グールドのピアノ独奏――に接するのに近いものがあるから不思議だ。


 2部はベースに湯川トーベン(元・子供バンド)、ドラムスに石塚俊明(元・頭脳警察)を加えてのエンケンバンドで登場。ジミヘンも顔負けのサイケなロックを聴かせてくれた。
 ただ、トリオでもひとりでもエンケンの佇まいは変わらない。表現に臨むときの姿勢も同じだ。
「カレーライス」「オムライス」「ラーメンライス」と、曲に登場させる食の好みも一貫しているし、ペットブームの変遷などとは関係なく示し続ける猫への偏愛も、四畳半への愛着も、36年間不変だ。
 だからデビュー時の曲と最新のものが並んでも不揃いな感じがしない。不変であり、普遍である。


 この日は、自身で監督・主演・音楽をつとめた初の映画『不滅の男 エンケン日本武道館』(19日より京都シネマで公開 ※注:新聞掲載時)の記念ライブでもあった。
 無人の武道館を相手に、ひとりエンケンが鬼気迫る演奏を繰り広げるという、これも破格の音楽映画だが、幕間で予告篇の上映も行われた。


 アンプを背負い、ギターをぶら下げ、自転車で武道館に乗りつける場面では笑いが起こる。
 だがその姿は、痩せ馬に跨がり長槍を手にして風車に挑んだ遍歴の騎士に似ていやしないか。


 もっぱら、風車との対決において記憶されているドン・キホーテ
 エンケンもよく「対決」と口にするではないか。通じるものがある。
 全身全霊をかけて何かと相対した者を、人はそう容易くは忘れないのだ。




【読売新聞・大阪版夕刊:2005年11月18日(金)掲載】


※視認性の向上を図るため、紙面掲載時のものに改行を加えています。
※タイトルは、web掲載にあたって、改めて書き手(大内)が付けました。
※掲載時見出し:「全身全霊かけ『対決』」




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