●些細な娯楽

「フロンティア文庫」というものがある。
全編プラスティックコーティングされたページで出来た文庫本である。
背もバインダー式で綴じてあって任意のページで開いたままにしておける。
濡れてもまったく平気。水まわりで読む用に作ってある。
そう、風呂とフロンティアをかけてあるのだ。


最近、腰痛のせいもあり、湯船に湯を張って入浴するようになった。
だいたい午前中に入ることが多い。
極楽である。
朝寝朝酒朝湯が大好きでそれで心証つーぶしたー、小原正助どんの気持ちがよくわかる。


しかしながら、ぼけーっと湯船に浸かっているのも手持ちぶさたなところもある。
本でも雑誌でも持って入ればいいのだが、根が貧乏性で細かい性格というのが災いする。
どうしても水滴等が気になってしまって、過去にも試してみたことがあったが、定着しなかった。
濡れてへたってもいい本なら構わないが、そんな本はあまり愉しめなかったりもするし。
と思っていたところで発見したのが、このフロンティア文庫だったのである。


このシリーズ、東西の名作中心のラインアップなのだが、
そこはそれ、なにせ半ばのぼせた頭で読むものだから気楽なほうがいい。
そう思って漱石の『坊っちゃん』を求めて紀伊国屋書店に行ってみた。


坊ちゃん (お風呂で読む文庫  1)


ところが、2週間ほど前までは幅一間ほどの書棚ひとつ使って展開していたのにもう見当たらない。
柱の裏のコーナーで、カセットブックやCDブックと一緒にされているのをようやく発見した。
だが、『坊っちゃん』がない。品切れである。
替わりに目に付いたのが、同じ漱石の『草枕』だった。
例の「山道をのぼりながらかう考へた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。」
という出だしの文だけで、内容がどんな話かは知らなかった。暗愚を恥じる。
紹介をみると、山あいの温泉場が舞台とある。
風呂で読むにはちょうどいいじゃん、という即物的かつ単純な理由で読んでみることにした。


草枕 (お風呂で読む文庫 12)


これが面白い。
まずなにより文章が凄い。
冒頭のあのくだりからしてそうだが、リズムが重視されていて、読んでいること自体に快感が伴う。
風呂場の愉悦が増えた。



今日は、朝までかかって仕込みをしていた。
7時に帰宅して1時間半仮眠。
咳き込みが激しく2日間休んでいた息子を保育園に送っていって、新大阪へ。
午後から渋谷でゲスト収録だったのである。
DJときわめて親しいゲストでもありインタビューは盛り上がって無事収録完了。
本屋併設のいつものカフェで軽く打ち合わせたあと品川へ。
東京滞在4時間半でとんぼ返り。
21時、局に来て別ゲストのコメント収録。
なかなかよく働いた一日であった。
今日は早じまい。
といっても零時近いが。