●いやはや、でかした


インタビュー取材の代理で、後輩のディレクターに東京へ行ったもらった。
活き活きした話を首尾よく録ることができたとの報告をメールでもらったので、「それはでかした!」と返信した。
そこでふと気になった。


「でかした」って、なんだ?


自分で打っといてなんだが。
いかした、みたいなものか。
ということは、「いかす」という元の動詞だか形容動詞だかがあるみたいに「でかす」って単語があるのか。
まさかなあと訝しみつつ、辞書を引いてみた。


したらば……


でかし‐た【出来した】
[連語]《動詞「でかす」の連用形+過去の助動詞「た」》人がうまく事をやりおおせたときなどに、感心してほめたたえる語。
「よくやった、ーー」


だと。
えええええ。


「動詞『でかす』の連用形」って。
……そうか、あるのか。


「でかす」。


衝撃を受けつつ、さらに引いてみた。


でか・す【出来す】
[動サ五(四)]
1 できるようにする。また、作り出す。こしらえる。
2 やってのける。なしとげる。


うーむ。明治の旧制高校の先生は生徒に訊いたりしたのだろうか。
「君のでかしてみたいことはなんだー?」とか。


用例に福沢諭吉の文が引いてある。


「私の生涯の中にーー・して見たいと思う所は」〈福沢・福翁自伝


言葉が古いとかいう以前に、よくよく考えてみるに、「やりとげてみたいこと」を希求する、そういう内圧みたいなものが自分には低い気がする。
時代のせいにばかりしてはいけないが、たとえば「立身出世」という言葉がその力を失っていくのと軌を一にして「でかした」もその使用範囲を狭めていったのではないか。


「でかした」が出産という一大事を無事クリアした母親にしか適用されないのも、どこか納得ではある。


そもそもドラマでお馴染みのその手の誕生シーンでも、髭をたくわえた爺さんが万歳して「でかした!」と喜んでるのは、“男児”誕生の場面だったりするしな。
家父長制の衰亡、立身出世願望の低下、それとともに「でかした」は消えていく言葉なのかもしれない。


それにしても、いか天より上昇志向の強い、のしあがりたい系のバンド専門の登竜門番組だったら、「でかすバンド天国」でもよかったわけだ。
通称・でか天。


うーむ。
ゴリさんとヤマさんとチョウさんが、天使の輪っかと羽根をつけて、喫煙コーナーで火を分け合ってるところしか想像できない。






妄想の翼は休むことを知らず。
しかし私の脳のほうはどうやら休息を求めているようなので、寝る。