●ミルクパック一考

牛乳パック開封所作指南絵解き



1リットルの牛乳パック、あの上の部分がずいぶん開けやすくなっているなと、朝、ふいに思ったのである。


昔、まあ30年ばかり前、私が小学生だった頃、学校の給食で飲んでいた牛乳は瓶だった。
そういえば瓶の牛乳のフタを集めてたこともあったな。
机の上に伏せて並べて、息を溜めて「プハッッ」と吐いてうまくひっくり返せたら相手の分を分捕れるというゲームが流行ってた。
そのように賭博性を孕んだ児童の遊戯は、過熱すると学校当局の介入を招き、じきに禁止されるのだったが。


それはともかく、瓶のほうは、先が小さな千枚通しみたいになっている器具とかもあり、簡単にフタを開けることができたように思う。
ところが紙パックの500ミリリットルだか1リットルだかのやつは、いつも失敗してた。
そう、給食の瓶のフタにくらべるとずいぶん開けにくいなあと思ってた記憶があるから、あれはやっぱり小学生の頃だと思う。


牛乳パック上部の、高床式倉庫の屋根の正面みたいになってるあの部分。
あそこをガポッと左右に広げて後方に押し付け、そのまま前方にずりずりっと押し戻してくると、密着していたパックのフチのところがパカッと開いて鳥のくちばしみたいになる。


そのはずなのだが、あの接着してある部分がなかなか上手く剥がれなかった。
パコッと手前に押し戻そうとするのだけれど、くっついてる部分は剥がれず、くにょんと前に戻ってくるだけ。
最初と同じような形になるのだが、しかし一度失敗すると、へりのところがくにゃくにゃになりテンションがかからなくなる。
だからもう、片手だけでクチバシ状にパコッなんて芸当は不可能になる。
(って、一応、言葉で説明してるけどわかりますか。牛乳パックの上部における事情について。不安なので写真を載せておきます)


仕方なく接着部分に爪をかけて、剥がそうと試みることになる。
野蛮なやり方である。
そうやってなんとかこじあけることができたとしても、それではもうクチバシを収納して閉じた状態にするということができない。
あるいは、いっそ、合掌造りの屋根のところを前も後ろも開いて、上から見ると十字の形にしておいて、バカッバカッと開ける。
そうやって全開放型にしてしまうほかない。
いつも敗北感を味わっていた。


それがいつのまにか、何の苦もなく「パコッ」ができるようになっていた。
成長して握力がついたおかげか、なんらかのコツを身体が覚えたか。


そういう側面もあるかもしれないが、私は接着の具合が改良されたのではないかとにらんでいる。
しっかり密閉しているのだが、外部からクチバシを押し出す方向へかかる力に対しては、ゆるるんとラクに剥がれる、そういう接着法が編み出されたのではないか、と。
たぶん、生活のいろんなところに、そういう、技術者たちの不断の努力の積み重ねによる目に見えないバージョンアップが施されているのではないかと思うのだ。
おかげで私のような不器用者でもなんとか日常生活を営んでいける。
だから私は現代の生活にはーーいささか便利すぎるきらいはあるにせよーー基本的には感謝したいと思っている。


かようなことを金曜の朝に牛乳を飲みながら考えた次第。