●狂気は自分の中に育つ


ミドリ/eastern youth@梅田Shangri-La
以下、敬称略。


強烈なツーバン。どちらが先攻なのかと思いつつステージをみてみると、鍵盤が出ていない。
そうか、と思っていると、まず田森篤哉、二宮友和両名、つづいて吉野寿
eastern youthが現われた。


3人で出すミニマムでマキシマムな音。
2曲目に、最新作『地球の裏から風が吹く』から「沸点36℃」。シビれる。


「東京から来ました、eastern youthというバンドです。あんまり変わったことはできませんが、精いっぱいやりますんで最後まで聴いてください」丁重な挨拶。


「狂気というものは空から降ってくるものじゃないんです。心の中でゆっくりとゆっくりと育ってゆくもんなんです」
吉野の、そんな言葉につづけて「青すぎる空」。カッチョええ。


「駅前で、向こうから風が吹いてきて、見ず知らずのひとが、うわーって。
バスに呑み込まれていくひとたちも。みんなひとりぼっち。
友だちなんていなくたって愉しいさ。
街はいつでも俺のふるさと」
ラストは、そんな語りにつづいて「街はふるさと」。カッチョよすぎる。


地球の裏から風が吹く  沸点36℃  DON QUIJOTE(ドン・キホーテ)






セットチェンジを経て、つづいてはミドリの出番。
このところのオープニングSE、たまの「かなしいずぼん」が流れて、小銭、ハジメ、原田の三名が登場。
位置についてイントロを始める。
と、上手のカウンター上に後藤まりこが立っている。
後藤は、指さして招き寄せた客の肩の上を、因幡の白ウサギよろしく渡り歩いていく。
途中でバランスを失って、倒れ込みならがステージに辿り着く。
いきなり「あんたは誰や」で始まった。


いつもながらにどきどきするスタート。
観客のあいだから漏れ聞こえる感想や客が着ているTシャツなどから判断するに、この夏の《SUMMER SONIC》を見てやってきた客も多いようだ。
ミドリのライブには、間違いなく中毒性がある。
次に何が起こるのか、毎回、固唾を呑んで見つめてしまうのだ。


来月、大手から出るサードアルバム『清水』でも、なんら変わらず、猥雑でワイルドで繊細で純真な歌と演奏が聴ける。
その新作からの2曲もよかった。叫びは少々抑えめだったりもするのがだが、伝わってくるものはあまりある。
濃密な時間はあっという間に過ぎた。
水銀くらいに高濃度で高密度な液体のなかに、一時間弱、浮かんでいたような気分。


ところで、MCで後藤が言っていた「オシリペンペンズのモタコさんのお父さんの絵の展覧会」というのはこちらのこと。


http://www.westjr.co.jp/news/newslist/article/1173349_799.html


会場の出口のところに、案内の掲示がしてあった。
内容を読んで、改めてしばし言葉を失う。


後藤のお母さんも……で、「お父さんとお母さんがデュエットしてるテープがあってーー松山千春の『恋』やねんけどーーそれを聞いたらお母さんの声、思い出した」というくだりでは、不覚にも泣きそうになった(って、別に不覚じゃないか当たり前か)。この世には神も仏もないものか。


狂気を自分のなかに育てているひと、育ててしまっているひと、でもそんなに不安がることはない。
神も仏もいなくてもミドリがいる。eastern youthがいる。


清水  セカンド    ファースト





補足:ステージ上で暴れまくるミドリの4人と、それを支えるべくキビキビと動き回る3人の大人たちのプロフェッショナルな仕事っぷりにも密かにシビれた。