●喋りに痺れてえも言わず


『叱り叱られ』山口隆幻冬舎]、読了。
全音楽人必読の名著である。


サンボマスターのギターと歌担当、山口隆が偉大なる先輩ミュージシャンたち6人にインタビューを挑んだ対話集。
そのインタビュー相手とは……山下達郎大滝詠一岡林信康かまやつひろし佐野元春奥田民生
凄い面子。
漢・山口、まごうことなき魂の六番勝負である。


山口の該博な音楽知識もさることながら、登場アーティスト各人に対する限りない愛情が、発言のハシバシからひしひしと感じられる。
そしてなによりロック実践者として音楽を演奏し、歌い、叫んできたことで得た“信頼”が、いずれ劣らぬ難物(失礼!)から稀な“言葉”を抽き出すことに成功している。
この会話自体がロックン・ロールだ。


山下と交わされる「ロックン・ロール論」。
大滝との漫才さながらのやりとり。
まさに“現役同士”としか言いようのない、倍ほども年齢の離れた岡林との対話。
かまやつさんの自在さへの素直な賞賛。
佐野との対話の後半の大部分を占める「ラジオ論」。
気の好いセンパイ奥田との好対照ぶり
(“いまにすべてを込めないと、いつ居なくなってしまうかわからない自分”を抱えた山口と
“これが最後ってわけじゃない。このあとも作り続けないといけない”と思っている奥田)。


どれをとっても本質的なところに届いているのが凄い。


普通にダイアログの愉しさに耽溺できるって意味でもお奨め。
ブログとかって、基本的にモノローグばかりの集積だから、読んでるとヘンな感じに疲れるでしょ。
そうゆうときには会話するか、せめて会話に触れたほうがいい。
その点、これはほんとに上質でエスプリが効いてて、面映ゆいが音楽愛に満ちていて、それでいてギラリと野蛮な部分もある会話。
まるでダイナミックレンジの広い音楽を聴いているのに近いとこがある。


気になる箇所にミニ付箋貼りながら読んでたら、本の天のところが幼稚園児が作る七夕の短冊みたいに、がしがし山盛りになった。


そうそう、山口本人による前書きと後書き、各対話の前後につけられたゲスト紹介MCと対談を終えての感想、そのどれも良い。
なにをやってもサマになるひと(松田優作とか、原田芳雄とか……かなり偏ってるけど)がいるように、なにを言ってもカッコいい男もいるのである。それが山口隆という男なのである。
あれでよくある男前ヅラしてたら厭味だぜ、ってくらい、シビれる言葉だらけである。






叱り叱られ  この表紙に惑わされず(惑わされて?)大いに買うべし、読むべし。