●頭も身体も使って生きる


昨日は木村カエラ嬢、今日は電気グルーヴと、連日のロングインタビュー収録。
といっても話を聞くのは私ではない。
DJちわきまゆみ嬢である。
普段は東京で取材となる場合が多いのだが、今回はスケジュールの関係でちわき来阪と相成った次第。
おかげで、というわけではないが、いい話が聞けたと思う。


インタビューにも一応台本があって、作るのはディレクターの役目である。
まず、CDのリリースやライブ日程といった告知事項を押さえる必要がある。
これはキャンペーンで稼働しているアーティストさんを迎える上での、最低限必要なマナーに近い。
(結果、そういう事柄については、まったく話さずに終わる場合もあるが)


次に、おおまかに話の流れを考え、流れに沿って質問事項を配置する。
質問は、音源を聴いての印象や、最近の活動内容をもとに考える。
とはいえ、音楽から離れた話題も必要である。
そこで、レコード会社やイベンターの担当氏にアーティストの近況を訊くことになる。
(俗にこれを「ネタ」と呼ぶ)
それをもとに、会話のきっかけや糸口になりそうな話題を探り、いくつかを台本のなかに忍ばせておくのである。


ラジオのインタビューには、活字でのそれとはまた違う面がある。
「答えにくいかもしれないが核心を突いた質問」といったものは、雑誌などと違ってラジオにはあまり馴染まない。
(ドキュメントや報道など他の分野となるとまた別だろう。少なくとも音楽関係に限っての私の印象ということだが)
その場のトークから醸し出される雰囲気ーー活字でいうところの“行間”ーーが、思いのほか、如実に伝わるメディアなのである。
だからーー方法論としてだけ語るのはフェアでない気がするがーー北風よりは太陽型であるほうが効果的だったりするし、天の岩戸を怪力でこじ開けようとするよりは、岩戸の前で踊ることを求められるほうが多い。


で、そういう雰囲気のなかで、いかに相手が話したがっていること(あるいは話したがっているのだけれど、しかし自分ではまだ気づいていないようなこと)を、訊きだすか。
これは相当に難度の高いことである。
まず、限られた時間に、適度にリラックスした空気を作り、話を始める必要がある。
そこから今度は適度な緊張感をもって話を展開していかなければならない。
早い話、酒場でやっている会話を凝縮したような趣きがラジオのインタビューにはあるものだ。
(くだらない雑談もマジメなトークも両方ありますわな。酒場では)


そんなわけで、空気感は悠長をキープしつつ、だが話は有機的に結びついて進むことが望ましい。
そのために事前にネタを探るのである。
相手の関心事がどこらへんにあるか、それくらいは分かっていないと無駄玉を大量に撃つことになりかねない。
なにしろインタビューに与えられる時間は、30分か1時間くらいしかないのが常なので。
その限られた時間のなかで訊けるだけのことは訊かなくては。
このあたりが、まあ、酒場の会話と違うところではある。


で、今回は、ここ数ヶ月のあいだのカエラ嬢のパブリシティ、つまりは雑誌でのインタビュー記事のほとんどをまとめて読むということをした。
前述したように、ネタを拾うためである。
しかしながら量がかなりのものである。
大量の資料に浸り、カエラ嬢の活字上の発言を脳に次から次へと通過させていくと、なんというか、ちょっとイタコの口寄せみたいな、妙な気になった。

仮想上のインタビューになら、カエラさんに代わって、ある程度答えられるような気になってくる。
だがもちろん、んなこたぁない。錯覚である。
これまでのインタビューでは出なかった話を引き出し、こちらの想像を超える展開に持って行く聞き手だっている。
そうでなければ、わざわざ話を聞かせてもらう意味が(完全にないとまではいわないが、ほとんど)ない。
この点、ちわきはラジオ向きのインタビューが抜群に巧い。
活字に起こすと他愛のない話かもしれないが、耳で聴くのに優れて良い。
(なので、私が用意した質問や話の構成などというものは、だいたい役に立たないのだが)


それはそれとして、カエラ嬢の話で印象深かったことをひとつ。

今回のアルバム『+1』のテーマのひとつ、「平凡な日々、普段の生活を大事にしたい」と思うようになったのは?


「物事を考えるのが大好きなので、家に帰ってきたときも、ずっと頭が回転してる状態がつづく日が多々あって。それをどうにかして落ち着けられないか? ってずっと思っていて」
「“仕事とプライベートの状態を分けたい”と思ったのがきっかけで、自分の気持ちをちゃんと把握することがまず必要なのかな、と」
「素直な気持ち=自分を落ち着かせる=人のためにも何かができるようになるかもしれない」
「“駄目な自分を受け入れる”じゃないけど、“どこかであきらめを持てる”ことってすごい重要なことだなって、この2年間くらい考えてて」
「でもどうしたらいいかわからないので、そのあいだに『Scratch』っていう妄想が詰まったアルバムを作って」
「それで(今回は)「+1」で、私はこういう答えを見つけましたっていう」


「考えて答えを見つける」という当たり前の思考回路が生きている健全なひとを、ひさしぶりに見た気がした。
頭がいい(のも確かだと思うが)という前に、“頭を使う”ことを知っているひとだと思う。
それも、すらりと伸びた手足を巧く使って走ったり飛んだり跳ねたりしているのと同じように、ちゃんと頭も使ってどういう行動を取った方がいいか判断しているという感じ。
生き延びるために、当たり前に五感と全身をフル活用してるだけ。
そういう格好良さなのだな、あの存在感は。


Sex and the City』の話で異様に盛り上がっていたふたりを、
あるいは“坂本龍馬”の話になると興奮のあまり手をテーブルにぶっつけてしまうカエラ嬢を、
あさってからのオンエア(4/12, 19, 26)で、ぜひお確かめあれ。


http://funky802.com/nuggets/




そして電気グルーヴの話は、これはもう爆笑に次ぐ爆笑。
こちらは5月にオンエアします。おたのしみに。




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