●CORNELIUS:シンクロ語りのフォークロア

THE CORNELIUS GROUP "Ultimate Sensuous Synchronized Show" [2008/4/12(土)グランキューブ大阪


 小山田圭吾がソロになり、“コーネリアス”と名乗るようになって15年。
 独自のスタンスで音楽表現の可能性を広げてきた彼が、4人編成のバンド名義で臨むのがこの“シンクロナイズド・ショウ”。音楽と映像の融合を目指す、ここ数年の試みの集大成である。


 3人の精鋭がドラム、鍵盤、ベースを担い、小山田はギターやテルミン(ロシア発祥の最古の電子楽器)を駆使。
 ボーカルの扱われ方もひとつの楽器に近い。画家が絵の具を置いていくように単語を演奏に載せていく、そんなイメージだ。


 そして背後のスクリーンには数々の映像ーーダイニングテーブルの上を浮遊する角砂糖、夜更けのリビングを跳梁する光のパルス、地平線の上をひたすらに飛び続ける渡り鳥の旅、小さな人形たちが群衆となって回り続けるブリューゲル的な光景などなどーーが映し出されてゆく。
 ファンタジーとは違う。
 むしろ現代のフォークロア(民間伝承)だと思う。
 身近な場所で、日用品やシンプルな造形物が辿る奇妙な冒険行。
 それは都市化された我々のための新しい民話ではないか。それも教訓などが持ち込まれる前の、ただの“おはなし”の頃の。


 そう思わせるだけの、人の手ざわりみたいなものが映像にも演奏にも残っている。
 こういう音楽をやっていながらテクノロジー信仰に陥ることがない。
 それがすごい。


 そもそも「同期」というのは、合わせる意志なくしては成立しないが、合わせようと意識するとギクシャクしてしまうものだ。
 この矛盾を超えて初めて達成できるものだからこそ、人はそこに美を見出すのである。


 コーネリアスのなにげない力業は、美しい。 






【読売新聞・大阪版夕刊:2008年4月24日(木)掲載】


※今回から紙面掲載時の文字が大きくなった関係で、トータルの文字数が少なくなりました。
※Webにアップしている写真は、大内が撮影しました。
 開場時、Corneliusサイドより、「営利目的でなければ撮影自由」という粋なアナウンスがあったのでそれに甘えました。
 参照:http://d.hatena.ne.jp/garak/20080412


※視認性の向上を図るため、紙面掲載時のものに改行を加えています。
※タイトルは、web掲載にあたって、改めて書き手(大内)が付けました。
※掲載時見出し:「現代のフォークロア