●Still Smoulder Now!!!


  


満月の夜。
The Who大阪城ホール。初の単独来日公演の初日。


まだ横浜、埼玉、東京とライブはつづくので、曲目等に言及するのは控えるけれど、いやあ素晴らしかった。


まあ、2001年10月の《The Concert for New York City》のときも、2004年の《ロック・オデッセイ》のときも凄い演奏をみせてくれていたので、まず間違いないステージになるだろうとは思っていた。
それでも64歳のボーカリストと63歳のギタリストのコンビが牽引するバンドである。
50代後半にしゃんとしていたって、60代前半も同じ調子とは限らない。
が、そんな心配は杞憂だった。
限りなく現役のロックバンドによる最高のライブだった。


ピート・タウンゼントは、「ジャンプするには年をとったよ」なんて言いながら、がしがし腕を振り回していた。
ロジャー・ダルトリーは、白いマグカップを口に運びつつ、ぶんぶんマイクを振り回していた。
いつもより多めに回しておりますという声が聞こえてきそうなくらいに。


The Whoは、やっぱり四人の魔法使いが集まったみたいなバンドだったんだな。
ひしひしと、そう感じた。
イントロでギターがざくざくとリフを刻み、ボーカルがシャウトしてひと声ひと声が爆竹のように破裂すると、ヴンヴヴヴヴンヴンとベースが唸り、ドラムスがすべてを押しのける雪崩れみたいに背後からせり上がってくる。
全員が代わる代わる目の前に来て、魔法をかけていってくれるみたいだ。


ジョン・エントウィッスルキース・ムーンはもういないけれど、その魔法の形骸は、サポートメンバーが継承している。
というよりも、このふたりのリズム隊が遺した形は偉大すぎる。
しっかりと踏襲するよりほかに、The Whoの音楽にアプローチするのは難しいのだろう。


かといって、これみよがしにワザを披露するというようなイビツなことにはならない。
曲が束ねる。
あの四人がこういう曲を召喚し、こういう構成を持った曲たちが四人の技をさらに強化していった。
そういえるのではないか。
The Whoはーーメンバー個々の技倆も卓越していたがーーなにより「曲本位制」のバンドなのだと思う。


ブルージーでグルーヴィーな演奏もできたし、プログレッシブにもできた。
ロックオペラという、ややもすると冗漫に陥りかねない形式であっても、聴衆を退屈させなかった。
それは曲に戻ってくることができたからではないか。
30秒ごとになにかが起こり、聴く者をずっとドキドキさせながら突っ切っていく。
ピートは、3分間のポップソングとして成立する、そういう音楽を作り出すことができた。
深く鋭い、ある種、文学的で哲学的な内省に満ちた歌詞をそこに載せることもできた。
まったくピート・タウンゼントというのは凄いソングライターだ。
その凄味の片鱗も、改めて感じることができた。


なにしろ、2年前に出した24年ぶり(!)のオリジナルアルバム『Endress Wire』からの曲もしっかりプレイしてくれるのだ。
しかもこれが良い。
デビュー43年にもなるバンドの来日公演に、なにも新曲を求める観客なんていないかもしれないけれど、The Whoには、やはりNEW SONGは必要なのだ。
ピストルズのライブにそんなものは要らないのかもしれない。
けど、ボブ・ディランニール・ヤングブルース・スプリングスティーンジョー・ストラマーも、ツアーをするなら、きっと新曲を用意するだろう。
ピート・タウンゼントはまぎれもなく後者のタイプのミュージシャンで、そういうところに私は惚れる。


   *   *   *


私の10席ばかり隣に、シックなスーツできめた、ザ・コレクターズ加藤ひさし氏がいらした。
立ち上がって、腕を組み、身体を揺らし、手を叩き、終始首を伸ばし気味にして、ずっとステージを観ている加藤氏。
その姿を視野の隅で捉えてから、私も前方のピートとロジャーに目を凝らす。
ステージのさらに向こうにはブライトンビーチへと走るランブレッタの群れが見える。
これも得難い経験だった。




※「A thousand songs - still smoulder now」
 〜a passage from "Tea & Theatre" (smoulder=燻る)




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