●2008年ベストソングス30傑・後編


あけましておめでとうございます。
結局、この企画も越年してしまったけれど、ともかく、残る10傑。

# song title artist name included item
1 Sayonara 90's アナログフィッシュ Fish My Life
2 2005年の岸辺から 寺尾紗穂 風はびゅうびゅう
3 Pride of Lions 東京スカパラダイスオーケストラ Perfect Future(初回限定盤)
4 大人の子守歌 フラワーカンパニーズ たましいによろしく
5 銀河 with 忌野清志郎 原田郁子 銀河(初回盤)
6 そんなことがすてきです。 ohashiTrio THIS IS MUSIC
7 時間です 田辺マモル 田辺マモル ノートブック
8 はかめき リクオ What’s Love?
9 涙がこぼれそう The Birthday 涙がこぼれそう(初回限定盤)(DVD付)
10 Loveずっきゅん 相対性理論 シフォン主義


注釈カウントダウン。

#10 「LOVEずっきゅん」相対性理論

もともとは2006年に制作されてライブ会場などで手売りされていたミニアルバムに入っていた曲。
タイトルを『シフォン主義』(資本主義、ね)という、その盤がリマスターされて全国の流通販路に乗ったのが2008年5月ということで、ここに配させていただきました。
ハイ、なにしろ衝撃でした。
ボッサで、ウィスパーボイスで、歌詞はストレンジで、NEW WAVE
こんなアヤしい……というか、はっきりいってヘンな音楽を聴くのはひさしぶり。
いやぁ嬉しかった。
沖山優司氏の名作「東京キケン野郎」を彷彿とさせる痛快度。

しかもアルバム通して聴けば確信犯なのは間違いないし。
どんなバンドかと思っていたら秋にはライブを観ることができました。
ボーカルのやくしまるえつこ嬢……マイク持つときも水飲むときも絶えず両手を添えて、それ以外は微動だにせず、ただ歌うだけ。
そんな姿に、またグラリ。


年が明けて2009年早々に出る、ニューアルバム『ハイファイ新書』(解体新書、ね)も、さらに独自の境地を究めた名盤になっとります。


#9 「涙がこぼれそう」 The Birthday

チバユウスケというひとは、まぎれもないロックスターではあるんだけれど、年を追うごとにケレン味がなくなってきてるようで、それがまた格好いい。
リフも歌い方も、どんどん率直になっている気がする。
特に詞。
いわゆる“ロック”的なイディオムに頼ることはまったくなく、しかし限りなくロックな光景を描き出すことに成功している。
その大きな収穫がこの曲。
冒頭の呟くような心情の吐露から、やさぐれた情景の描写を経て、とにかく両足で立ち上がって「あのコにラブコール」と心に決めるまで、ほとんど一体になって聴いてしまう。
パリ・テキサス」風というか、サム・ペキンパー風の、メキシコの沙漠みたいな場所を借景してた『SABRINA HEAVEN』の頃もよかったけれど、いまはそれがトーキョーに還ってきた感じ。我らが生きてるニッポンに。


あと、こんなセリフも耳に残ってる。
The Birthdayになってからの最初のアルバム『Rollers Romantics』を出したとき、そのタイトルの意図するところを問われて。
「みんなロマンティックなところあるでしょう。隠してるだけで」
たしかそんな風な答え。


それから、今回のアルバム『NIGHT ON FOOL』での取材で、この「涙がこぼれそう」のリアルなタッチに絡めて、インタビュアーが訊いたときのこと。
−−こんな風に酔っててもちゃんと詞にできるってすごい。考えてるんだね(これ、皮肉なんかじゃなく、真面目に感心しての感想デス)。
「別に……みんな考えてるでしょ。たまたま俺は歌詞にするってことがあるから、こういう風に形にしてるだけで。みんな考えてるよ」
これにはグッときた。
詩集「ビート」もよかったしな。

#8 「はかめき」 リクオ

ここから先は、それこそ涙がこぼれそうな曲ばかりが続くんだけれども、これも相当ヤバい。
これ聴いてグッとこない四十男を、あたしゃ信じる気になれない。
「はかめき」は、ぜひアルバム買って聴いてください。
アルバム『What's Love?』も丸ごと名盤ゆえ。


ここでは、この曲と同じライン上にあるともいえそうな、これも強烈に名曲な「同じ月を見ている」を。

#7 「時間です」 田辺マモル

やっぱりこの男(個人的に知らない仲ではないもので、ちょっとぞんざい)は天才だと思った一曲。
彼個人のブログにアップロードされている。リリースはされていない。
「2008年」という年を、ある意味で代表するティピカル・ソングでもある。
6月8日に起きた秋葉原通り魔事件のことを歌った曲。
1ヶ月後の7月8日には、彼はこの歌を書いている。
(この取り組みの素早さは、タイマーズの頃のゼリーを思わせないでもない)
http://mamolog.seesaa.net/archives/200807-2.html
こういった事件を歌にすること自体、賛否が分かれるところかもしれない。
けれど、文句なく私は支持する。
みんなが共感しなくたって別にかまわないけれど、こういう表現が可能だということも“歌”の度量のひとつだ。
「きっとうまくいくからてをつなごう」みたいな歌ばかりが歌じゃない。
実際に聴いてみれば、心に波風が立って、心臓がキックされるのを感じると思う。
重苦しい気分になることも間違いないけれど、それはこの世の中がそうだってこと。

#6 「そんなことがすてきです。」 ohashiTrio

トリオといっても、大橋好規ひとりによる個人ユニットである。
アルバムでは相当手練れのレイドバックしたサウンドが聴けるが、なかでもこの曲が秀逸だと思う。
細野さんばりのボーカルもいいし、歌詞もいい。
2008年いちばんの掘り出し物(といっては失礼だが、ほんとによいので)かもしれない。

#5 「銀河 with 忌野清志郎」 原田郁子

2008年でいちばん嬉しかった曲のひとつ。
中盤、バックに清志郎の声がかぶさってくるところは、ある種の奇跡を前にしているみたいな趣きを感じる。
郁子嬢、それから清志郎の死生観みたいなもの−−人間がどれほどのもので、人生がどれほどのものか、だからさ、生きてるあいだは生きるんだ−−も感じられて、やさしい時間なんだが同時にひりひりもする、不思議な心地のする曲。
14分足らずのあいだが、なんだか永遠のような気もする。

#4 「大人の子守歌」 フラワーカンパニーズ

「子供のときは必要なかったのに」「どうして大人には要るんだろう」ってものばかりが列挙されていく。
酒、セックス、肩書き、建前……。
バックの演奏が、これまた控えめかつ饒舌な物狂おしさでやられる。
これ聴いてグッとこない四十男を(以下、#8と同文)。


これも、アルバム買って聴いてくれい。
で、映像は、「大人の子守歌」と双子みたいな曲「この胸の中だけ」のPVを。
これも激烈によい(曲もPVも)。
この曲にもっともふさわしい場所で歌うフラカンが見れます。
(一人称ソングなのに、ボーカル鈴木圭介以外の人称を持ち込んだところがワザあり)

#3  「Pride of Lions」 東京スカパラダイスオーケストラ

ゲストボーカル、伊藤ふみお
心の底……胃袋の底から震えるような曲とはこのことか。
谷中敦がいつも「闘うように愉しんでくれ」っていうけれど、そんな感じ。自分がアスリートだったら試合前に集中&高揚するときに聴く曲は、なにをおいてもこれでしょ。


あと、夏のRISING SUNのときの、もちろんフミオ氏が飛び入りしたステージの映像が、それも歌詞付き(えらい!)でアップされていたのでそれも。
この曲歌うためだったらば、カラオケ行ってもいいかと思ったもんな。ま、もちろんライブに行く方が数段いいんだけど。

#2 「2005年の岸辺から」 寺尾紗穂

産休で休まれているあいだにリリースされたアルバム『風はびゅうびゅう』。
アルバム単位では、2008年でいちばん聴いた一枚だと思う。
小倉エージ氏も2008年のベストアルバムの一枚に挙げてるらしい。


このひとと同時代に生きているのだと思うとそれだけで生きてる価値があると思えるような、でもって明日もちゃんと目を覚まそうと思えるような、そんな存在であります。


とりあえず、曲は違うが、この天才の演奏を見よ。

#1 「Sayonara 90's」 アナログフィッシュ

多感な10代を90年代に過ごした、そんな世代によるアンセム……ならぬ、クロスカウンター。
けれどあとに残るのは「いまだってそんなにわるくはないさ」という、どこかすがすがしい気分。
まわりまわってこんな風に、現在……2008年を照らし出せるなんて凄い。
彼らにとっての90年代ってのは、つまり10歳年嵩の俺にしてみれば80年代にあたる。
で、もし自分が80'sに対峙するとしたら。
きっと、もっと恨みがましい表現になると思うのだ、いまだに。
なのでこの吹っ切れ感には、そういう意味でも賛辞を送りたいと。
そう、つくづくしみじみ思った一曲。ピース。
(一部加筆)

という一文が、某局のサイトの2008年振り返り特集に載ってまして。
それを寄稿するにあたって考えたことが、今回、こんな企画を自分のブログでもやってみようと思ったキッカケでした。
「2008年BEST SONG」ってどの曲だろう? と挙げていくと、いくつもいくつも候補曲は浮かんできて収拾がつかなくなって、でもやっぱり名曲は数あれど「2008年の気分を表してる曲」を優勢とすべきだよなと思ってベストワンをアナログフィッシュのこの曲にして、そしたらやっぱり何度も何度も聴けば聴くほど素晴らしい曲で、こういうのがもっとバシッと売れる世の中にならんとやっぱり間違ってるぜ、って何度も「やっぱり」を繰り返す羽目に陥り、でもやっぱり「いいものはいい!」とスネークマンショー伊武雅刀みたいになっていく自分がいて。
しっかし名曲。
失われた10年とかロスジェネとかの名づけよりも、これ一曲のがよっぽど辺りを照らしてくれるってもの。


   *   *   *


期せずして、上位2曲はさよならの歌っつうか、船出の歌っつうか、そんな歌になりました。
偶然なのかなんなのか、それはさておき、30曲を並べてみて、自分には「流行」は必要ないのだなあと痛感しました。
「舟唄」に於いて阿久悠が喝破したとおり、「はやりの歌などなくていい/ときどき霧笛が鳴ればいい」のでして。
思えばこういう歌詞を、当時「はやりうた」のトップランナーであった阿久氏が自作に紛れ込ませたというのも意義深いことです。
「歌謡曲」に翳りが見え始めた1979年という時期に。


それもまたともかくとして、そうなのです。
夜更けの港に鳴る霧笛のような曲こそ、私には必要なのであります(おそらく皆さんもそうなんじゃないかと思います。チバユウスケ的に言うならば)。


流行を必要とするのは、港を知らないひとたちであります。
外海=外界に出て行くための開かれた港。
それがないひとは流行を知らないと困るのでしょう。
そういうひとたちは、そのように世間や他人の顔色を窺って生息されればよろしい(それが苦でもないのでしょうから)。
お言葉ながら、私は、もうちっとマシな人生を生きたい。悪いけど。
我ながら後厄を迎える人間の言い草とも思えない大人げのなさですが、流行が必要ないのと同様に、年齢もあまり関係ありません。チャボさんが歌うとおり、「どう生きてく、なのか」であります。
まあ、そんなわけで、今年もよろしく。