●ランブルフィッシュの帰還


以前にも触れたことのある映画、『The Wrestler』の試写会があった。
私は時間に余裕をみて行ったので知らなかったのだが、開映時には満員になっていて、この日は入れなかったひともかなりいたそうだ。
注目しているひとはしているのだと思うと嬉しい。


内容は、期待にたがわず素晴らしい映画だった。
ミッキー・ロークが途方もなく、いい。
落魄した中年プロレスラーの悲哀をリアルなタッチで、酷薄に、ときに醜く、演じ切る。


居場所を−−ほとんどは自らの責任で−−損ない続けてきた男が、ここにきて、また生きていく場所を追われる。
彼は失地を回復せんとして躍起になるが、世の中は充分に冷たいし、彼自身もまた相応に愚かだ。
その様子は、酸素を求める金魚に似てどこか滑稽でもある。
水面の上に必死に顔を出そうとするが、ひょっとすると彼はもう、真水よりも泥水のなかで生きるほうがラクな身体になっているのかもしれないのだ。見ていると、そんな気がしてくる。
そんな男と、同じく中年に差し掛かったヌード・ダンサー(マリサ・トメイ)が、ささやかな感情の交流を持つ。
それだけといえば、それだけの映画だ。
だがそれだけのなかに、四十年あまりを生きてきた人間なら感じずにはいられない矜恃や後悔や虚しさが詰まっている。


かつて、故郷に帰ってきたものの自分の居場所を取り戻せず、水槽のなかの闘魚を居場所に返そうしたミッキー・ローク
さらに25年の年月を経て、彼がこの作品のなかで見出す居場所はどこにあるか。


ランブルフィッシュ [DVD]


再起を期す格闘家というストーリーなら、我々はすでに『どついたるねん』という傑作を有している。
かなり近いものをこの作品からも感じる。
Bruce Springsteenの主題歌も、とても素晴らしい。
ワーキング・オン・ア・ドリーム デラックス・エディション(DVD付)


だがあれがフラワーカンパニーズの「東京タワー」でも、全然違和感はない。
それくらい「負けて負けて/泣けて泣けて/もう最低にダメでも」奥歯を噛んでみたくなる、これはそういう映画である。
敗者の話なのに、なんでなんだろうな。


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