●錆びない大人がひとり


今夜の番組の喋り手は、休暇中のレギュラーDJちわき嬢に代わって、助っ人・増子直純氏 from “怒髪天”。
我々、制作サイド(具体的には俺個人)からの依頼を快諾してくださっての登場である。嬉しい。
昨日届いた選曲を見た時点で、もう相当に熱い。他になく面白いものになりそうな予感。


念のため、増子アニキ(と、皆さんに倣って、私も呼ばせていただけるなら)には少々早めに局入りしていただいた。
本番3時間前、ご神体「ヘドラタンク」を小脇に抱えての入場。
先ほど、大阪・神山町のショップ“Charactics”に直接立ち寄って入手してきたとのこと。
http://charactics.shop-pro.jp/?pid=2846466


さすがのフットワークの軽さである。
しばしヘドラ話で盛り上がる。
とはいえ、増子さんのヘドラ好きは有名だが、同席したスタッフのなかでヘドラへの想いを共有できるのは私だけのようだ。
ま、世代的に、極めてピンポイントなトピックではあるのだろう。
ちなみに、《66NITE》を主宰されている増子アニキと、67年の早生まれである私は同じ学年である。
http://www.ukproject.com/que/66nite.html


「うちは学年でやってるから、67年でも早生まれだったら同じなんだ」と有り難い言葉をいただく。
タメ年くくりの話はよくあるが、「学年で」とはっきり言明するあたりに、鮮明な意志を感じる。
ディティールにこだわってこそのお遊びなのだから。
実際、「金八」が始まったときに小六だったか中一だったか中二だったか(66/4-67/3生まれにとっては中一の秋)、
ジョン・レノンが射殺されたときに、中一だったか中二だったか中三だったか(同じく中二の冬)、
ルビーの指環」がベストテンの1位を独走しつづけたときに、中二だったか中三だったかすでに高一だったか(同じく中三に上がったばかりの春)、その違いは大きい。
……かどうかは知らないが、一応、そういったトリヴィアルな事柄に細かくこだわってみるのが、この手の遊戯の前提条件である。
そうして、同じものを享受して育った世代に共通するものを感じて感心してみたり、同じものを見て聴いてきたはずなのにこんなにも違うものかと驚いてみたりするわけである。
このあたり、内田樹先生にいわせると、偏差値で細かく輪切りにされた揚げ句、同学齢集団内での競争に汲々として自壊しつつあるニッポンの精神文化や教育現場の話にもつながりそうで、なんだか尻のあたりがむずむずするところではあるけれど。
http://blog.tatsuru.com/2006/11/22_1104.php


でもね、これは、うーん、なんといったらいいのか……そう、同じく内田氏や松村雄策氏が言っていることでもあるのだけれど、よくある「ビートルズ原体験バナシ」ってのがあるでしょう。
「『抱きしめたい』がラジオから流れてきたとき、カミナリに打たれたような気がしてなにがなんだかわからなくなった」とか「初めて『サージャント・ペパーズ』を聴いたときは目の前のモヤがさーっと晴れていくように思えたんだよな」とかなんとかいって、いかにビートルズがすごかったかと言うことによって、要はそれに出会えた/反応した自分がすごかったかを言い募っているにすぎないような手合いがいるわけだ。
しかし、松村氏や内田氏はいう。60年代当時、現役でビートルズを聴いていた奴なんて、中学や高校のクラスに1人か2人がいいところだったと。それがあとになって「ビートルズ世代」という適当なカテゴライズが施された結果、「なにいってんだ、おまえが聞いてたのは舟木一夫じゃないか」というような人間までもが「いや、ジョンとポールが……」などとのたまうようになったのだと。


ま、内田氏はそこからさらに深く掘り下げて、その手の「模造記憶」の是非、功罪、意味合いについても考察を発展させておられるが、ともあれ、同世代くくりにはそういった落とし穴もあるということ。
だから何が言いたいかというと、同じ世代だろうが、実は見てきたものが全然違うなんてことは山ほどあるということだ。
で、同じ年齢でもニッポンのロックやパンクに人並み以上に入れ揚げて過ごしてきた人間にとっては、増子さんのような人物の存在は非常に心強い。
めんたいロックの話から『傷だらけの天使』、『アストロ球団』や『竜二』の話などなどがぽんぽんできる相手は、同い年だからってそういるものではないのだ。
前述のビートルズの話と一緒で、ATGの映画を意識して見てたようなやつなんて、クラスにひとりもいたかどうかなんだから。


さて話が逸れてしまったが、打ち合わせのほうは『ヘドラ』からニッポンのパンクシーン黎明期の話、『爆裂都市』の話などなどに飛び火しつつ、爆笑のうちに完了。
我々はバタバタと準備を整え、スタジオにアニキを迎え、いざ本番へ。


ラジオの生放送でひとりで喋るのは「そういえば初体験かも」とのことだったが、いやいやどうして。
さすがの名調子であった。
トークにおける勘どころが素晴らしく良い。
ツカミ、ハズし、オチといった技巧上のことだけでなく、話の構成がしっかりできるかたである。


その話の巧みさに加えて、ちゃんと音楽の匂いがするのがいい。
自分の血や肉となった音楽のことを話すときの真剣さ、のっぴきならなさが、笑いの向こうから伝わってくる。
やっぱりアーティスト番組はいい。
話題性とかタレント性という意味じゃない。
きちんと音楽をかけられるという意味で。


増子アニキによる選曲は下記ソングリストを参照のこと。
http://funky802.com/realeyes/songlist/index.html
この日の仕込み(進行表作ったり、原稿書いたり)をしてるあいだ、二十数年ぶりにARBの『トラブル中毒』を最後まで聴いてしまった。
それもふたまわし。




ニューアルバム『LIFE BOWL』もとても良い。
コアでコンパクトでかっこいいオープニング曲「不惑 in LIFE」はギターウルフ・セイジ氏が参加したクールで熱いパンクチューン。つづく「ドンマイ・ビート」では女子OL目線も取り入れてクスリと笑わせてくれる。
「好キ嫌イズム」は、いかにも、らしいな、と思わせる怒髪天版「つ・き・あ・い・た・い」か?
西荻窪の商店街の焼き鳥の匂いがつんとするような「なんかイイな」はちょいとホロリとくるし。
なかでも「青の季節」はとびきりの名曲だ。バラードじゃなくて、アップなロケンロールなのに泣ける不思議な曲。




オンエアも無事終了して、軽くメシでもと外に出たときに、少し話せた。


成功したいとか女にモテようとか思ったことない、と増子さんは言ってた。
パンクバンドやるのにそんなこと思わないよ。
これで食っていけるなんて発想あるわけない。そもそも青いモヒカンでモテるわけもないし。
ぶっこわしてやる、それだけだよね。


然り。
まっこと然り。
錆びつくことなく、こういう風に大人になるひともいるのだ。
もし増子さんが生前のカート・コバーンに会うことがあったなら、きっと《66NITE》に誘ってただろうな。






怒髪天/怒髪天[CD]【返品種別A】  LIFE BOWL  [rakuten:neowing-r:10045967:image:small]  [rakuten:sumiya:10042856:image:small]  [rakuten:joshin-cddvd:10049793:image:small] [rakuten:guruguru2:10160789:image:small]  握拳と寒椿[CD] / 怒髪天  [rakuten:neowing-r:10003016:image:small]  Colors of Life