●花も実もある作り事


日曜日である。
朝方に帰ってきて7時半に眠り、正午に目覚めた。
出かけてゆく家族を見送ると、家にひとり残された。
ぼんやりと遅い朝食を摂りながら、溜まっていたビデオを観る。
といってもドラマが3本あるだけ。
『歌姫』の3回目と4回目(ようやくこれで本放送に追いつけた)、それに『SP』の初回。



『歌姫』


面白い。役者陣の誰もがふさわしい役どころを得ていて、なおかつ主役がしっかり存在感を発揮している。
テンポよく流れるストーリーにも無理がない。
長瀬智也演じる「四万十 “グッと来たぜよ” 太郎」の、過去をめぐる懊悩が絶妙に配されて、ストーリーに滋味と深みを与えている。
ヒロイン「岸田鈴」役の相武紗季が、回を追うごとにめきめき良くなるのにも驚き。


4回目でよかったのは、「この腹ぼて女が!」と罵られた泉(鈴の姉。大河内奈々子が演じている)が啖呵を切るところ。
「岸田家のはちきんがそもそも誰か、教えちゃるき!」


グッと来たぜよ。
極妻にはなんとも感じないのになあ。不思議なものである。


とゆうことで、なんだか個人的に『龍馬がゆく』以来の土佐弁ブーム。
やはり方言を生かしているのは強みである。



『SP』


これは岡田准一主演のアクション・サスペンス。
新聞のラテ欄の番宣で興味をそそられたので録ってみた。


踊る大捜査線』の演出と同じひとだそうだ。
『踊るーー』は見たことがないのでよくわからないのだが、映画の『うどん』も撮ったひとだという。
あれはつまらなかった。
しかし、この『SP』は面白そうだ。


バレーボールの中継が押していて、ビデオでは後半の15分間が録画できていなかったのだが、それでもわかるものはわかる。
台詞のタッチ、ストーリーの運び方、誇張のない演技。
それぞれのキャラクターも、脇役に至るまで、フックが効いていて存在感がある。
大場久美子のヒステリックな女性都知事役も上手くはまっている。
コメットさんが都知事とは、時は流れるはずである。



ヱヴァンゲリヲン新劇場版・序』


もらった券が余っていたのだけれど、ひさびさに映画館に行った。


11年前、吉祥寺で暮らしていた頃、映画の美術をやっている友だちがすぐ近所に住んでいた。
というか、初め、彼のところに転がり込んで居候していたのだ。
すっかり吉祥寺が気に入ったのですぐ近くの下宿を借りたのだった。
その彼が、「ものすごくおもしろいロボットアニメがある」を教えてくれたのが『エヴァ』だった。


すでにTV放映を最後まで見ていた彼は「まあ見てみ」といって、レーザーディスクが出るたびに電話をくれた。
そう、ほんの10年前のことなのに、いまではもう跡形もないけれど、あの頃はレーザーディスクなんてものがあったのだ。
たしか96年春の放映終了からほとんど間を置かずに、2話ずつを収めたディスクが月に一度リリースされていたのだ。


ともあれ、電話をもらうと私はいそいそとコンビニで買い込んだヱビスビールを差し入れに、奴のアパートに参上する。
着くやいなや1時間、その時点ですでに30歳のおっさんふたりが雁首並べて、ろくに口も利かずにテレビの画面に集中するのである。
考えるだに異様な光景である。


しかし『ウルトラセブン』や『帰ってきたウルトラマン』を見て育った我々にはこたえられない魅力が、たしかにこのアニメーションにはあった。
最後の2話分を見せられたときには、さすがに卓袱台をひっくり返しそうになったけれど。
思えば友人は、自分がTV放映を見ていたときに味わったのと同じ気分を共有したかったのかもしれない。
そんな具合で、尻切れトンボの結末に心底がっかりさせられながらもやはり気になる作品だった。


さて、ひさしぶりに目にした庵野ワールド。
今回の映画版は、血飛沫度、血の雨度アップ。
ほんとに『セブン』『新マン』あたりが好きなやつには訴えるところ大の仕上がりだった。
エピソード的にも「ヤシマ作戦」のくだりまでなので、怪獣映画のある種の醍醐味を感じるのにはちょうどいいクライマックスで終わる。
次の展開を気にして待とう。


しかし『エヴァ』を映画館で見るのは、なんだかしっくり来ない。
やっぱり密室が似合う作品ではあると思う。
レーザーディスクが出るたびに、友人の家を訪ねて見た体験がそう思わせるのかもしれない。




クライアントの事情や世間のマーケティングなどとは関係なく、制作者が意欲をもってきちんと作り上げたものを立て続けに見た。
どれも、“花も実もある作り事”を目の前によびだしてみせるために血道を上げている。
熱にあてられたか、さすがに少々疲れはしたものの気力は高まった。
マニアもメジャーも流行もマイナーも関係ないよ。
やるべきことをやるだけさ。