●Helpless World


新井英樹の『キーチ!!』の続編が単行本になっていた。
タイトルは『キーチVS』と改められ、少年だった染谷輝一は20歳になっている。


小泉政権から始まった構造改革路線のもと、ニッポンに表出してきたあらゆる軋みをぶちこんだような内容。
プロローグの、老いた母と中年の息子のエピソードから、いきなり頬をはたかれた、いや、ぶん殴られたような気分になる。


新井英樹が描くカリスマは皆、頼ってはいけない神様のたぐいである。
当の本人が「頼るな」と言っている(と思う)。
けれど頼り、拝んでしまう。
そういう周りの人間たちの勝手さ加減、弱さ加減、醜さ加減がこれでもかと描かれる。


だから『キーチ』であれ『THE WORLD IS MINE』であれ、主役は、そういう世の中である。
新井英樹は世の中を、いつわりなく公平に描く。
公平すぎて目と心臓に痛く、ほんとは目を逸らしていたい、そんな世界なのに、それでも見入ってしまうのは、やはり「嘘のないものが見たい」という欲望なのではないかな。


いくら生活の足しになるからといって、私たちは、もう、たいがい厭になっているのだ。
嘘をついたり、つかれたりという繰り返しに。
そんなことはないかい?


嘘をついたり、つかれたりという手続きをこなして、ようやく維持している生活がこんなにみじめでは、そりゃそんなことにもなりはしないかい?


純度100%の、嘘の混じりっけのないカリスマが出てきたら、きっとかなりの人間がなびくだろうな。
ま、小泉純一郎がトップに躍り出てきたとき、かなりの人間は彼のことをそう思ったのかもしれないけれど。
なんだかそれも裏切られたような状況のいま、そんなような存在を求める気分だけは以前にも増して高まってるような気はする。


2巻を待つ。



キーチVS 1 (ビッグコミックス)