●"Fever Pict"


私の写真生活は、このところ、レンジファインダー2台とコンパクトデジタル機1台を中心にまわっていたのだけれど、思うところあって、デジタル一眼レフを買うことにした。


レンジファインダー主体だったこの数年で学んだのは、フットワークの軽さがいかに大事かということ。
なので、チョイスは自ずとできるだけ軽く、小さくという方向へ。
その方向でいくと、OLYMPUSE-420には相当惹かれた。
ほとんどLEICAのM型と変わらないサイズ。
外装もシックで安っぽくない。
なによりシャッターまわりのグリップが薄いのがいい。
(握力増進具みたいに太っといグリップはまったくどうかと思う)


ただ、そんなことをいっても私には選択の余地はほとんどない。
すでにレンズを3本持っているNikonのアドバンテージは揺るぎ難い。
まあ、その3本も行き当たりばったりで手を出してきたレンズばかりではある。
AF NIKKOR 28mm/F2.8、COSINA/Voigtlander COLOR-HELIAR 75mm/F2.5 SL、NIKKOR 180mm/F2.8 ED AI-s。
一貫性がない(75mmと180mmの2本はいいレンズだけれど)。
せっかくのデジタル一眼化の機会である。この際だから考え直してみようか。
しかし残念ながら、そういうオプションは私にはない。
経済が許さない。
やはり私にはNikonしか道はないのである。


だが悩ましいことに、この手の旧型のレンズだと入門機のD40ではオートフォーカスが効かない(ということが判明した)。
デジタル一眼の入門機として大ヒットとなったこの機種だが、その要因は主に破格の価格設定にあった(そうだ)。
レンズキット込みで5万円台というこの価格を実現するために、カメラ本体からはAF機構を取り去るという割り切りが必要だった。
そのため、AFモーターを内蔵しているレンズ以外は、フォーカスはマニュアルで合わせるしかないということになった。
なるほど。


この判断に関しては賛否両論あるようだけど、良いではないかと思う。
NikonがFマウントを維持していることは支持するが、Nikonそのものが消滅するようなことにでもなれば意味がないのだから。
従来のNikonにしては英断だと思う。


実際、D40は売れた。
裏には、旧来のレンズを大量に所有しているハイアマチュア諸氏がサブ機として購入するという事情もあるという。
昔のレンズを最新のデジタル機で使うには、どうせなんらかの制限が加わるものだ。
だったらいっそ、AFだってなくていい。さっぱりしていいや。
あとはこっちで、てめえの目で焦点くらい合わせらぁ。
と江戸弁で思ったかどうかは知らないが、D40は売れているのだった。


そのあたりの事情について、あらかじめ詳しかったわけではない。
今回、デジタル一眼を手に入れようと決めてから、いろいろ調べているうちにそういう背景がわかってきたのである。
そうなると、D40という機種のはっきりしたスタンスが、なんだか好ましいものに思えてきた。
ま、言やぁ、粋に感ずというやつである。
ファミリーや女性向けに小型化が必須となり、そのために割り切った結果、マニアも惹きつけることになった。
まったくマーケットというものには、なにが有効に作用するか分からない。
なかなか痛快な話じゃないか。


余談だが、私はそもそも理念的に説得されないと動かないみたいなところがある。
理念で良しと思えなければ買い物もしづらい。
これは、消費者としては、はっきり弱点だと思う。
高度消費社会を生き抜いていくタフな消費者は、そんなことで消費行動を決定したりしてはいけないのだ。
逆にいえば、理念的に正しいと思えばコロっと引っかかる可能性もあるわけだから。
唯一、それを弱点だと認識していればそんなにひどい騙されかたはしないだろう(頼りないセーフティだけど)という言い訳は用意しているにしても。


で、余談ついでながらそう考えると、あながちストーリーのチカラは軽視できない。
こういう人間は少数派なのかもしれないが、要は私はストーリーで動いて(ストーリーに動かされて)いるわけだ。
D40という機種が開発され、発売され、市場に広まっていくまでの物語に説得されたのである。


なにせデジタル関係の製品は寿命が短い。
モノに愛着を覚えるような手合いは、それだけで手を出すのが億劫になる。
いくらかのカネをはたいて手に入れたものがすぐに古びていくのが耐え難い。
ことに私は吝嗇だから、ただただ惜しい(代わりに、「一生もん」という言葉には弱い。一生使うわけもない「一生もん」には簡単に手を出す)。
そういう人間がデジタルものに手を出すには、ある種の物語に背中を押してもらうことが必須なのである。
(思えばGR Digitalのときもそうだった。なんと簡単な人間……)





さて、そんなこんなの煩悶の末、手に入れたD40
梅田の某量販店で、貯まっていた割引ポイントを使うと、ボディ本体だけなら23000円で買えた。
5年前、タイガースの優勝セールで値引きされていたBESSA-L(OLIVE)を買ったときとほとんど変わらない値段である。モノの値段ってわからない。


前述の3本のレンズのなかから、75mm/F2.5をつけてみた。
[GRDで撮影]
ルックスは悪くない。
ピントリングの銀が、いいアクセントになってる。
焦点距離のわりには、もともと小ぶりにできているレンズということもあって、手に持った感じもしっくりくる。


[GRDで撮影]
ただし実際に撮ってみると、正直、やはりピント合わせには苦労する。
フォーカスエイドも当てにはならない。
望遠系のレンズの場合、前後に少々ピンを送って、押さえを数枚撮っておくなんてことも必要だろう。
このレンズだとAFはおろか、AEも効かない。
フィルム巻き上げこそ自動、というかしなくていいものの、あとはほぼ完全に手動操作(完全に手動。ヘンな言い方だが)。
それでも、なんかいい感じ。
デジタル“フルマニュアル”一眼。
なかなかに愛着湧きそなD40



局内にいたクマ。ケバだってるとこやらホコリやらもけっこう写ってる。
コンパクトデジタル機とのCCDの違い、プラス、レンズのおかげか。
暗めなのは、ホワイトバランスを蛍光灯に設定したせいかも。
D40 COLOR-HELIAR 75mm/f2.5 1/80 ISO400 開放]