●本当も嘘もテキーラでカクテル


山田太一脚本の新作ドラマをテレビ東京系でやっていた。
放映は3日前、5/28(水)の夜。


タイトルがいい。
「本当と嘘とテキーラ」。


こういう、謎を孕んだ含みのあるタイトルが最近のドラマには少なくなったなと思う。
(みんなハリウッド映画みたいに直截的だ。内容まで直接話法だ)


山田作品にしても、少々異質なタイトルではある。
けれど、内容を観てみるとタイトルにふたたび強く頷いてしまう、そういう意味では「ふぞろいの林檎たち」の系譜に位置するものかと。
この題名のわけを知るだけでも観てみたいと思わないかい。


あらすじに関しては、局のサイトに詳細が掲載されている。
http://www.tv-tokyo.co.jp/yamada-hut/


いいドラマだった。
ここ数年の山田氏の充実した仕事ぶりに改めて感嘆。
40代の頃のようなペースではないが、力のこもった右フックのような作品がつづいている。


思えば、フジ系列で去年放映された『星ひとつの夜』では巨額の金を動かすデイトレーダーを登場させたし、2002年の『迷路の歩き方』では鉄道の安全管理、及び耐震偽装のこと(どちらもJR西日本福知山線事故の前であり、姉歯建築士による偽装が明らかになる前である)を扱っていた。
現代の事象や風俗をすくいあげるのが、相変わらず卓抜である。
今回、その焦点を合わせたのは「クレーム処理」という仕事である(主演の佐藤浩市の役どころは、危機管理コンサルタント)。
とはいえ、ただ話題の職業だからということで主役に設定するというようなことは、このひとの作品にはない。
ちょっと考えればわかるように、デイトレーダーも鉄道や建築の安全管理もクレーム対応の問題も、主題はすべて通底している。
嘘と本当のあいだで揺れるということだ。


思えば、『男たちの旅路』のなかで売り込み用の洋酒を倉庫から抜き取ろうとする営業マンや、『ふぞろいの林檎たち』では出入りする営業マンを利用して購入した機材の横流しを目論む資材課の課長を登場させていた。そのどれもが、行動に一理はあるかな、と一瞬思わせる内実や理論を持っていたのである。
そもそも『ふぞろいーー』自体が、いつわりの学歴を名乗るところから始まる話だった。
家族全員の秘密や嘘が、多摩川決壊というカタストロフとシンクロして暴かれる『岸辺のアルバム』においてはなにをかいわんや。
山田太一がテーマに据えているものは一貫しているし、ブレがない。


この『本当と嘘とテキーラ』に出てくる自殺してしまった女の子が、どこか『早春スケッチブック』の不良娘“三枝多恵子”に重なってみえる。
25年前の彼女には、反抗する術も、富士の裾野の矯正所から逃げだす力も、頼るべき存在(死病を患っているカメラマン“沢田竜彦”)もあったわけだが、いまはそういったもの一切が失われている。
世の中は妙にソフィスティケートされ、ツルンとしてしまって、ささくれだった気持ちがひっかかるところもない。
そんな世の中になっちまってからあとの物語、というようにも受け取れた。


そう思うと、かつて“沢田”を演じた山崎努や、その若い愛人の“明美”役だった樋口可南子が、今回の新作にも大事な役どころで登場していることに感慨深いものがあった。




最後に、「本当云々」ということで思い浮かぶ歌をふたつ。

本当の真実がつかめるまで Carry on      〜「スターダスト・キッズ」佐野元春

ねえ 本当は何か本当があるはず      〜「天気読み」小沢健二


俺自身が、年甲斐もなく「本当のこと」やら「本当の言葉」やらに飢えているせいだろう。
頭の裏側でまわってる。