●メートル上げてもインチは下がらず


東急ハンズの工具売り場によく行く。
2,3年前は、ここで自転車用の工具をぼちぼちと物色していた。
ドライバーやヘキサゴンの類いはひとしきり揃ったのだが、それでも工具というのはキケンなもので、道具のくせしてそれが目的化することがままある。
いまもついつい、PB SWISSTOOLのレインボー・アーレンキーを眺めるためだけに行ってしまったりする。なんだかな。
http://item.rakuten.co.jp/seed/051130525/


とはいえ、もうひとつ目的もある。
ずっと探しているものがあるのだ。
それはメートル表示とインチ表示がいっしょになったメジャー(コンベックス)。
なのでハンズに行くたびにその手の売り場を覗いていたのだが、いつもない。
メジャー自体は50個くらいは揃えてあるのである。
なのに、インチ表示が併用されているものがない。
インチ表示のみのものもひとつとしてない。
毎度いぶかしく思ってはいたのだが、この日はたまたま係の人が近くにいたので、ついに訊いてみた。


「インチ表示もいっしょにしてあるメジャーってないんですか?」


すると、思いがけない答えが返ってきた。
「ああ、それは……計量法の関係で、日本国内では売ることを禁じられているんです」


へ? 禁じられている? なんですか、それ?


迂闊にも、計量法の改正について私はまったく知らなかったのだ。


【参考】
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1010298445


しかし、現に自転車の世界ではインチで作られたものが数多あるわけで。
アメリカが頑迷にもインチ法(ヤード・ポンド法)に固執しているから云々というのは後づけにすぎないと思う。
計量の仕方が各国によってちがうのは、グローバル・スタンダードに照らせば非合理きわまりないことなのかもしれない。
是正して、統一基準を導入したほうが勝手はいいのかもしれない。
だが、現にその基準で作り出されたものがある以上、それを計測する手段を封ずる法はないだろう。
計測は計測、製造するものの基準は基準として分けて考えればいいことだ。


事実、いまでも日本家屋の計測には尺貫法は欠かせない。
それには理由がちゃんとある。
たとえば、畳の長辺=1.8メートルは尺貫法では一間である。
これは、1/2にすれば90センチ、1/3なら60センチになる。
対するに、メートル法の基準、1メートル。
これは1/2なら50センチだが、1/3は33.333333.......センチとなり、永遠に割り切れない。
2分の1にも、3分の1にもできる長さを基礎単位として持つこと。
実際の生活の現場で使われる単位として大きな意味のあることだと思う。


円が360度なのも、一時間が60分なのも、ゆえあってのことだと思う。
1ヤードは3フィートだし、1フィートは12インチである。
可視化できる単位については、2つにも3つにも分けられることが使い勝手の上では非常に肝要なのである。


現状、インチ表示の巻尺を手に入れるには、海外に出向くしかないそうだ。
どうにも納得がいかない。
狐につままれたような心地がした午後だった。