●裸の言葉


東京出張。
行きしなの新大阪で、いつものように、駅のコンコース2階にある書店へ。


文庫の棚で、村上春樹の『遠い太鼓』の隣に平積みになっていた本が妙に気になった。
おとついのNHKクローズアップ現代」でやっていた「ランキング依存が止まらない〜出版不況の裏側〜」が頭に残っていて、それで意識的に普通の書棚(ランキング表示でない書棚)を見るようにしていたせいかもしれない。


ともかく、それで目に付いた本はこれ。
『すべては「裸になる」から始まって』森下くるみ
すべては「裸になる」から始まって (講談社文庫)


「人気AV女優が、自らの生い立ちを繊細な筆で綴った、ソウルフルな自伝の書」と表4にあるが、そのとおりの本だった。
どこがそのとおりかというと「繊細な筆で」というところ。
ひさびさに異物に正面衝突した感じ。
やられた。


森下くるみというひとは初めて知ったが(当今のそのあたりの事情にはとんと疎うございまして)、とても率直で甘えのない文章を書くひとだと直感した。


アダルトビデオの現場云々というところは飛ばしてもいいから(ほんとはそこも直視したほうが倍いいんだけれど)、少なくとも第一章と第四章の、彼女の家族(とりわけお父さん)に関して書かれたくだりを読むだけでも、このひとがただならぬ感受性と表現力を持った書き手だということがわかると思う。
花村萬月による愛情あふれる解説もいい。


まったくこういう衝突の仕方をするから本屋通いはやめられないのだ。