●猫と工場島


ネットの検索に偶然引っかかって、その存在を知ったこの本。


「工場猫物語」三島正。


猫は特に好きでも嫌いでもないのだが、工場や工業地帯には否応なく惹かれてしまう俺。
つい気になって読んでみたら、意外にシビアな本だった。


川崎の臨海工場地帯の、ある人工島に暮らす猫たちの話である。
もちろん彼らはひとりでにそこへやってきたわけではない。
ほとんど皆、ここへ捨てられたのだ。
その数、およそ百匹以上。
彼ら、工場猫たちの存在を見過ごせなくなったある夫婦が、なんとか彼らを保護し、地域猫として共存してゆく道はないものかと模索、奮闘する。
その様子を、随伴する写真家が物静かな文章と雄弁な写真でつづった写文集。


簡単に結論が導かれる問題ではないから、本書は途中経過までのその報告といった形で終わっている。
それでも充分に訴えかける内容を持つ良い本であった。


書店に数多積まれている可愛らしい猫の写真集の類とは異なる本。
あるいは猫好きな方が見れば(いや、誰が見ても)、いくらかショックを受けるであろう写真も含まれている。
それでも、機会と関心があれば手にとってみてほしいと思う。
猫と人間と土地の関係が、やるせなくも浮かび上がってくる。
そうすると、殺風景だった工業地帯の風景が、やけに人間臭く、猫臭く見えてくる。
どこであれ、生き物が生きていればそこが居場所だ。


多摩川のタマちゃんに、横浜市はたしか住民票をあげたんじゃなかったっけ。
ここで生きている猫たちに、なにか渡せるものはあるだろうか。


工場猫物語