●23年目のウォッチタワー


昨日の記事に載せたソングリストのなかに、佐野元春の「警告どおり 計画どおり」という曲がある。
なぜこの曲をいま?
それについて、あるいは説明が必要かもしれないという気がしたので追記しておくことにします。


   *  *  *


ちょうど、地震が起こる5日前の日曜日、佐野元春大阪城ホールでライブを行っていた。
私が担当する番組の喋り手は、この日、初めて彼のライブを観た。
個人的な都合で観に行かなかった私は、彼女から感想を聞いた。
デビュー30周年を記念するにふさわしくゲストも多彩で、それはそれは盛大なライブだったという。


その翌週、今度は東京でこのツアーのファイナルが二日間にわたって開催される予定だった。
特に、この2DAYSライブの2日目は、佐野元春の誕生日=3/13にあたっていた。
とても特別な週末になるはずだったろう。
だがそれは、前日に起きた地震のために中止された。
会場の設備に損傷を受けたため、安全な公演ができないおそれがあるため、ということだった。


しかし、ここがなによりもあの人らしい行動だと思うのだけれど、オフォシャル・ファンサイトは公演中止を告知するだけに留まらなかった。
同時に、佐野元春から届いた詩が掲載されたのだ。


“それを「希望」と名づけよう”と題されたその詩は、ちょっと凄いものだった。
震災発生から二日後に、こういうアクションを起こす。
これこそが佐野元春だという気がした。


10年前、9月11日にアメリカで同時多発テロが起こったときも、やはり彼は詩を書き、二日後にはサイトに載せた。
ハートランドからの手紙#134
この詩とともに、「光」という曲を作り、テロ発生から一週間後にはフリーダウンロードでネット上に公開した。
当時、この曲に衝撃と感銘を受けた私は、知己を通じて彼のマネジメントに連絡を取った。
音源を借りて、まだフリー公開がつづいているあいだに昼の番組でオンエアさせてもらったことがある。


ロックンロールが持っている、疑問を投げかける力、異議申し立ての力。
佐野元春はそこに自覚的だ。昔も今も。
私はそれに応えたいと思った。


   *  *  *


番組では喋り手に、その大阪でのアニバーサリーライブの感想から話し始めてもらった。
東京のファイナル公演中止の知らせ。
“それを「希望」と名づけよう”の一節を朗読。
10年前の「光」発表のエピソードへ。


そして最後に、23年前、彼がリリースした曲を紹介した。



この曲をあえていまかけようと思ったのは、次の一点に尽きる。
それは、冒頭すぐに歌われるこの一節。

子供達が君に聞く
「本当のことを知りたいだけ」


いろんな理屈があるだろう。
いろんな立場があるだろう。
いろんな考え方があるだろう。


しかし子供たちがこう尋ねてきたときに返す言葉が、果たしてあるだろうか。
少なくとも、私にはない。


だったら、そこを起点に考えていけばいいのではないか。
考えていくしかないんじゃないか。そう思った。
だから選曲に加え、そして放送したのである。




以上です。